北大CAMUIロケット
宇宙作家クラブの例会。乃木坂のエクスナレッジへ。
「キューブサット物語」の締切を控えているときに、その出版社での例会。編集者と打ち合わせ、という大義名分で出席。打ち合わせは懇親会の場で、ということで懇親会まで出席。
原稿は第三稿に突入中。書けば書くほど書き直したいところが出てくるし、登場人物からもインプットが増える。ジグソーパズルのように、あれはこういうことだったのかということが今になっておぼろげにわかる。しかし、締め切りは迫る。
それはともかく、この日の例会の講師は北大の永田晴紀先生。カムイロケットの開発者だ。カムイは、縦列多段衝突噴流方式を英訳し、Cascaded Multistage Impinging-jet の頭文字を取ってつけられた名前だが、アイヌ語では「神(自然)」の意味。開発したロケットを一般に販売するとアナウンスしたとたんに、テロに使われるのではないかとの副大臣発言。そのあとのすったもんだは協奏曲ではなくて狂騒曲。残念ながら、このあたりはオフレコ話が多いので割愛。
カムイロケットはハイブリッドロケット。液体燃料と固体燃料をあわせて使う。その仕組みにはじまり、カムイロケットがなぜ優れているのかなど、詳細に説明してもらった。宇宙は100キロとか200キロ先にあるのではなくて、7.9キロメートル/秒先にあるのだという。つまり、ロケットのミッションというのは、加速することなのだそうだ。だから、何秒で燃やしきれるかがキーになる。これまでハイブリッドロケットでは実現できなかった早さでの燃焼に成功し、特許も取得されている。
技術の話も、とてもわかりやすくておもしろかったのだが、「縁は異なもの」の話はもっと興味深い。これは、すでに「物語」。話し手が一瞬感極まって言葉に詰まってしまうような感動の物語だった。
ハイブリッドロケットの事業化を考えて、ある中央省庁の助成金に応募。評価は高かったにも関わらず、不採択。理由は、「これは他の省庁の管轄である」とのこと。しかし、そちらの省庁では「産業化」云々の研究は通常採択されない。どこから研究資金をとってくればいいのか。
失意の中で、助けてくれる会社が思いがけないところにあった。
専務さんの言葉が泣かせる。
「先生、やりましょう。これは大事なことだから、やるべきなんです。お金はいりません。どうぞ何でも使ってください。幸い、ウチは本業で利益を出していますから、大丈夫です。これは先生のために言っているんじゃありません。北海道のため、ひいては日本のためです」
この言葉を聞いたときに、もう身銭を切っても自分はこれをやろうと決意されたそうだ。ほどなくして地域新生コンソーシアム助成事業への採択の知らせがきた。地元企業が真剣に支えようとする研究開発に助成しないわけにはいかなかったのか、かなりのウルトラCで決まったとか。
過去に多くの人たちが積んできた成果の蓄積。メーカーとしての気概を持ち続けている企業との出会い。今、自分がしている仕事は、過去にがんばってくれたたくさんの人たちの努力と成果の上になりたっているのだということへの気づき。感謝。そんなことを永田先生は、質疑応答を交え、4時間に渡って話してくださった。
「自分が生まれるずっと前から、あちこちでがんばっておられた多くの人たちの努力の上にいまの自分の仕事がある」
多くの人の損得を越えた、私利私欲とは無縁の「気概」の蓄積。それが、閉ざされかけた永田先生の道を開いてくれた。まさしく、縁は異なもの、である。
そして、私にとってもこの縁は異なもの。
永田先生の道を開いた会社は、私が生まれた小さな町にある。もう忘れかけている記憶の彼方で、新しい息吹とともに、私の中で塗り替えられていく、その町の色。
北海道のロケットが宇宙へ行く日はいつのことだろう。もしかしたら、意外に近いのかもしれない。そんなことを感じさせるようなさわやかな講演だった。
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