宇宙に行く人たち
最近、宇宙に行く人たちの話をよく聞く。
Dice-Kさんは22億円払っていくそうだけれど、もう少しお手軽なサブオービタルの宇宙旅行に行くことになっている方は、世界ですでに200人に達しているという。IT関係の会社にお勤めの木達一仁さんもその一人。会社がバックアップしてのこと。
「地球の歩き方」ならぬ「宇宙の歩き方」という本まで出版される時代になった。そのうち、「火星の歩き方」とか「木星の歩き方」という本が出るようになるのだろうか。
先日も、弾道飛行の宇宙旅行に申し込んだという方がお見えになった。IAC福岡で、UNISECブースに立ち寄ってくださったのだそうだ。九州在住のごく普通の若い方。
この旅行に申し込む決心をするには、二つのハードルがある。お金のことと、安全のこと。
安いといっても、1000万円を越す買い物だ。ほんの十分かそこら無重力体験をして、地球を少し高いところから眺めるためだけに庶民が払おうと思う額だろうか。思わず聞いてしまった。
「よく、1100万円もありましたね」
「あと2年あるので、足りない分はこれからためるんです」
なるほど。目的があれば、それくらいはためられるだろう。
安全のほうは、そういうわけにはいかない。弾道飛行といっても、飛行機ほどの信頼性が確保されているわけではない。
「ご家族は賛成しておられるんですか?」
独身の彼には、養うべき家族はいないけれど、親兄弟はいるだろう。
「まあ、うすうす知っているみたいです」
野口宇宙飛行士のフライトで船長をされていた女性宇宙飛行士の方の言葉を思い出す。二人のお子さんがいらっしゃる。コロンビア号の事故の後のフライトで、こわくなかったかという質問に対しての答え。力をこめて話された。
「私も家族も100%安全だとわかっていますから」
実際にスペースシャトルで事故があったのに、100%安全だと言い切れるのはなぜだろう。宇宙飛行を宣伝すべき宇宙飛行士がネガティブなせりふを口にするわけはないし、彼女はもともと軍のパイロット。当初から死ぬ覚悟はあるだろうし、あるいは、できると信じ込む技を会得しておられるのかもしれない。
松浦晋也さんの「スペースシャトルの落日」を読んで、背筋が少し寒くなったのは、私だけではなかろう。
そうはいっても、何が自分にとって大切なのかは、人によって違う。「宇宙に行く人たち」にとっては、宇宙に行くというそのことが何よりも大切なのかもしれない。
いっしょに話を聞いていた女子学生にどう思うか、あとで聞いてみた。今回のブース展示を切り盛りしてくれたしっかり者の彼女は、即座に答えた。
「私は行きません」
そして、
「そのお金は地球上で使います」とにっこり。
「宇宙に行くという衝動に突き動かされている人」にとって、この答えはきっと理解できないだろう。これがたとえば夫婦だったら、どうなるだろう。1100万円という庶民にとっての大金を、「家を買う頭金」にするか「宇宙旅行」に使うか。
この問いに対する答えが、一国の宇宙政策の根幹にあるような気がしてならない。日本はどちらだろう。日本国民はどちらを選ぶだろう。
願わくば、宇宙に行く人たちと行かない人たちが、平和に共存できますように。
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Comments
あらいさま
コメントありがとうございます。
「限界に挑戦し続ける人たち」が輝いているのは、自分の潜在能力を常に燃やし続けているからでしょうか。
すばらしいタレントやパワーを天から授かった人は、限界を自分で作らず、どんどん発揮していけるとよいと思います。そして、それがまわりの人たちによい影響を与えていくものであれば、よりすばらしいことだと思います。
Posted by: Rei Kawashima | 2005.11.18 08:58 PM
宇宙に行くだけじゃ満足できません!有人飛行の裏ではすごい人たちがすんごい努力をして不可能を可能にしています。そんな別世界に混ざって貢献できたらいいなって心から思います。
また、そんな別世界の様子を宇宙に行く人たちを通して発信できたら、宇宙に興味がない人たちにとっても、何らかの形で励みになったりするんじゃないかと思います。
Posted by: あらい | 2005.11.18 01:46 PM
目篭さま
コメント、ありがとうございます。
宇宙に行く人たちには、それぞれ固有の動機がおありだと思います。「宇宙へ行く人たち」が無事に「宇宙から帰ってきた人たち」に変われるように、心からお祈りいたします。
Posted by: Rei Kawashima | 2005.11.12 11:02 PM
ご無沙汰しております。能代イベントの件でお世話になりました目篭です。
実は、私は宇宙旅行クラブと、Space Tourism Society Japanの会員でもあります。(そもそも能代は秋山先生とSTSJで出会ったことがきっかけだったのです)
残念ながら私自身は、お金がないどころか借金だらけなので宇宙には行けませんが、そんなわけで、サブオービタル旅行者の方々とはお会いする機会がよくあります。この記事の九州の方も多分私の知っている方だと思います。
ひとつコメントしますと、私の知っているサブオービタル旅行者の方は、例外なく、リスクについては本当にしっかりと認識しておられます。
今、宇宙に行くのは間違いなく「冒険」です。そして、私がお会いした方々は、多分、宇宙という話がなくても、もともと「冒険者」という人たちなんだと思います。
世界中に「秘境」らしい秘境がなくなってしまったといわれる現代では、「冒険者たち」にとって宇宙は最も魅力的な「冒険」なのかもしれません。
旅行の金額に目を奪われがちですが、我々貧乏人の考える以上にお金持ちの絶対数は多くその中で宇宙に行きたいと思っている人はほんのごく一握りだと思われるし、お金がなくても何とか工面して行ってしまう人は行ってしまうので、マスコミの取り上げ方とは裏腹に、キーワードは「金持ち」の方ではなく「冒険」の方なんだと、私は思います。
Posted by: 目篭 | 2005.11.12 01:23 AM
木達さま
お久しぶりです。そういえば、ブログは9月でおわっていますね。トップページに変更しました。
またどこかでお目にかかりましょう!
Posted by: Rei | 2005.11.11 07:27 PM
レイさん、ご無沙汰しております、木達です。突然リンクしていただき恐縮です。Blogのほうは多忙中につき更新が途絶えておりますので、トップページのほうにリンク先を変更していただけると幸いです……。またお目にかかる機会を楽しみにしております。
Posted by: kazu | 2005.11.11 07:08 PM
おのさま
お久しぶりです。
コメント、ありがとうございます。
宇宙旅行の安全性について論じるなんてナンセンス!というくらいに技術レベルが高くなっている時代もいつか来るのではないかと思いますが、それはいつになるでしょうね。楽しみです。
Posted by: Rei | 2005.11.11 04:18 PM
僕も、誰かを送り出す側ではあるかもしれないけど、少なくとも今は自分が乗る気にはなれないですね・・・無責任かも知れないけれど。まだまだ自分が死んでもいいとは思えないし、まだまだ宇宙機は死ぬ覚悟がないと乗れない乗り物だと思う。
地上ですることをして、見るものを見たあとに、行ってみたいと思います。
Posted by: おの | 2005.11.11 02:24 PM