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MV後継機のポジショニング

MV-7号機の大成功。すばらしかったけれど、それだけで終わってはいけないような気がしている。

善き未来を創るための努力を惜しんではならない。今、しっかり考えて納得してコミットできる状況を作ったほうがいい。

MV-7号機の後のシナリオについては、笹本祐一氏が最悪バージョンを発表しておられる。(宇宙作家クラブの掲示板 #1077参照)このシナリオでは、日本は打ち上げ能力を失うことになる。一国ですべてをまかなえる能力を自ら手放すという、よくいえば国際協調型宇宙開発、悪くいえば他国依存型宇宙開発への移行という「悪い未来」を予見している。

悪い未来は、予見することによって、対応することができるので、防げる可能性が出てくる。だから、それを予見するのは重要である。

しかしながら、悪い未来の予見者は、あたってもあたらなくても不幸になるという宿命を持っている。悪い話を聞いて嬉しい人はいない。また、あたれば悪い未来が実現してしまうということであり、あたらなければ自分が間違っていたということになる。それをおして、あえて悪い未来シナリオを発表した笹本氏の勇気に敬意を表したい。

もうちょっと前向きなシナリオを作れないものかと思って、これまでの情報を整理しようと思う。整理にあたっては、マーケティングの手法を使ってみる。今回の決定には、どうやら「市場原理」的な論理がおおいに係わっているらしいので、分析もその手法を使うのは悪くあるまい。

(興味のある方のみ、続きをお読みください。)

まずは3C分析をやってみよう。3Cとは、顧客(Customer)、自社(Company)、競合(Competitor)。この順番は大きな意味を持っている。つまり、3C分析を行なう場合の出発点は、顧客なのである。顧客は誰か?そして、その顧客は何を求めているか?を出発点にしなければ、意味のある3C分析はできない。

● <顧客分析> 
   MV後継機の顧客は誰か?市場はどれくらいの規模か?成長市場か?

顧客は、500キロ以下のペイロードを打上げたがっている、宇宙科学・工学の研究者、と聞いている。フィージブルな計画がすでに5件ほどあり、構想段階ではそのほかに15件程度はあると、MVの記者会見で聞いた。

市場規模はどれくらいか?
宇宙科学の研究者が、どこから資金を調達するかといえば、ほとんどが国の予算ではないかと推察される。つまり、お金を払う人を顧客とするならば、顧客は「国」であり、その資金は税金である。(つまり、顧客は国民である)

とすれば、この市場は、宇宙科学に国がどれくらい投資するか、国民がどれくらい大事だと思うか、というところに依存している。現在のところ、JAXA宇宙科学研究本部(旧ISAS)の予算は減っており、180億円程度となっている。(海外の研究者を視野にいれるなら、もちろんこれはもっと増える)

このほか、科研費など公的な競争的資金を得る道はいくつかあるが、それらは個々の研究者の努力による。科研費はどれくらいあるのか。1,830億円で、これは政府全体の科学技術関係経費(約3.6兆円)の約5%、政府全体の競争的研究資金(約3,600億円)の約50%を占めている。この予算は、社会科学なども含んだものであるから、宇宙科学の予算としてどれくらい確保できるかということになると心もとない。1%とれたとして、18億程度。

ここで、ロケットの価格を安くしなければならないという議論が出てくる。つまり、顧客である宇宙科学研究者にとってロケットは宇宙に飛ばすための手段であり、乗り合いバスであろうとリムジンであろうと、そこにちゃんと行ってくれさえすればいい。全体予算が決まっているなら、安いほうがいい。ロケットが高ければ、肝心のミッション部分である衛星開発費をおさえなければならなくなる。

市場拡大がありえるかどうかは、資金調達の手段が国の予算以外から確保できるかどうか、あるいは、国の宇宙科学予算が増加するかどうかによるといえそうだ。国の予算とすれば、国民がどれくらいほしいと思うか、大事と思うか、というところにかかっている。

● <自社分析>

「自社」がどこか。MV後継機開発でもっとも曖昧なところである。

MVは、宇宙研が「自社」であり、いわば自社の衛星を打上げるためのロケットであったので、その役割は明確であった。MV後継機については、「自社」はJAXAであるが、どうやらMV後継機の開発は、民間で行うことになるようで、有力候補はIHIエアロスペース社(IAと略)との報道がなされている。

IHIエアロスペースは、日産の宇宙部門がゴーン氏の合理化政策の一環として切られたところをIHIが買収したという経緯がある。もともと、中島飛行機以来、名前がかわりながら一貫してロケット開発でがんばってきたところのようである。同社ホームページに書かれている沿革は以下のとおり。

1924年(大正13):中島飛行機(株)の原動機工場(東京・荻窪) 1945年(昭和20):富士産業(株) 1950年(昭和25):富士精密工業(株) 1961年(昭和36):プリンス自動車工業(株) 1966年(昭和41):日産自動車(株) 2000年(平成12):(株)アイ・エイチ・アイ・エアロスペース

IHIは、GXの開発の中心会社であり、もしIAがMV後継機をも受注することになると、IHIは二機のロケットを同時に開発する中心となるのだろうか。GXで苦戦しているIHIに、そのような余剰の開発能力があるのか、人的余裕があるのかは不明。これが吉と出るか凶と出るか、今の時点ではわからない。

MV後継機の開発に刺激とヒントを得て、GXの開発もトントン拍子に進むというシナリオになるのか、やっぱりMVが必要になったというシナリオになるのか、はたまた、「そして何もなくなった」という最悪のシナリオになるのか。シナリオ別に小説を書いておいて、打ち上げ予定の4年後に比べてみると楽しそうだ。

● <競合分析>

競合他社としては、ロシア、アメリカ、インド、中国など、衛星打ち上げサービスを行っているところはたくさんある。

ロシアのミサイルを転用したロケットは、1キロ1万ドルの相場。500キロなら500万ドル、すなわち5億円という値段になる。しかも、これまでに1000以上の打ち上げ実績があって、信頼性は高い。(もちろん失敗がゼロというわけではない) MV後継機は、この値段のロケットと競合できるだろうか。現在のMVは80億円(60億という話もある)くらい。小さくしたからといって、コストをそんなに切り下げることができるのだろうか。

現在、MV後継機は、25億円程度での打ち上げを目指しているという。500キロのペイロードとすれば、ロシアのロケットと比べて、5倍の値段である。価格のみで競争しようとするならば、かなり厳しそうである。

● <MV後継機の役割>

MV後継機でやるべきこと、やりたいことは何だったのだろうか。ここで一度整理してみたい。以下、記者会見や新聞報道で見られたコメントである。

1)MVはすばらしいロケットだが、できたこととできなかったことがある。たとえば、固体燃料ロケットの強みである速射性を生かしていない。もっと簡単に組みたてられて、取り扱えるようなものを作りたい。

2)MVは高機能のロケットだが、価格が高すぎる。もっと安くして競争力をつけなければならない。

3)世界に通用するようなロケットを作りたい。

4)二段階の開発を考えている。まずは、小型の固体ロケットをつくり、その技術をベースにして、MVなみの固体ロケットを作る。

● <MVとMV後継機のポジショニング>

ポジショニングとは、自社を他社と差別化するために、企業が自社の提供物とイメージをデザインすること。たとえば、「吉野家」といえば、「安い、はやい、おいしい」というイメージがある。最も効果的なポジショニングは他社が容易に模倣できないものであるが、どんなポジショニングも永続的なものではなく、市場の変化に応じて、自社のポジショニングを見直す必要がある。

MVのポジショニングは、「高機能、高価格、カスタムメイド」。MVは、ミッション最優先で、衛星にあわせて、いかようにでも変更して作るカスタムメイドのロケットだった。衛星側といっしょに作るロケットだから、衛星側との一体感がある。ミッションごとに作るから、頻度は多くはならない。衛星のお客さんが来たら、サイズをはかってデザインの好みを聞いて、おつくりするという形である。

それに対して、MV後継機のポジショニングは、「低価格、低機能、レディメード、高頻度」。MV後継機は、レディメードなので、衛星がロケットにあわせて作られる必要がある。これは、他国のロケットで打上げるときはこうなるわけなので、選択する側は、価格と信頼性を見てどのロケットを使うかを決めることになる。

MVのポジショニングは、ユニークであり、お金さえあれば誰もがこちらを選ぶだろうというものであった。MV後継機のポジショニングでは、他国のロケットと同じところで勝負しなければならないように見える。

戦場はどこか、差別化できるポイントはどこか?
付加価値をつけられるのはどこか?

価格の軸だけで考えていくと、なかなか解が見つけにくい。

世界一を誇れる研究成果を毎年毎年出せるような体制が、年間数百億円でできるなら安いものだと思うのだが、そんなふうに考える人は少ないのだという。本当にそうなんだろうか。

MVの廃止、及びその後継機のことは、優秀で経験のある方々が知恵を出し合って最善の道を決めたのだろうが、優秀な方々も見落としていることがあるかもしれない。一般人が見て気づいたことがあれば、教えてさしあげよう。ある意味で、真の顧客は、税金を払っている我々だと言ってもよいのだから。

「速い、安い、安全」なロケットができるなら、それも悪くない。それを狙ってのことならば、徹底的にそれを追求して、国内外の打ち上げ希望者が長蛇の列を作るようになるといい。1キロ1万ドルを切るロケットができれば、それは文句なしに売れるだろう。しかし、そんなことは可能だろうか。

もしかしたら、「顧客」が求めているロケットは、そういうロケットではないのかもしれない。何のために、誰のために、ロケットを作るのか。それは、一般的な市場原理の軸のみで考えることが適当なのかどうか。

JAXAさんにはマーケティング部門はないが、もしあったとしたら、どういう戦略を立てるだろう。私がマーケティング担当者だったら、どうするだろう。もっとヒアリングや調査が必要なのは言うまでもないが、ものごとは、複雑なように見えて、実は単純なのではないだろうか。シンプルな不動の線がどこにどんなふうに走っているのかを見極めることが、今、とても必要とされているように思う。

GX開発が苦戦しているのは、最初の「こういうものを作ろう」というコンセプトが、いろいろな事情(財政的、政治的なものもあるのだろう)で歪んでしまっていることも一因と聞いている。そうならないためにも、なるべくシンプルにして、後は技術者の頑張りのみ!という形にできれば、応援のしがいもあるというもの。

ロケット市場も衛星市場も、今、転機にあると思う。
ペンシルロケットからの50年がおわり、今、ここから新しい時代を作るのに関われることは、幸せなこと。

すべては、善きこと、全きことのために。
そう信じて、今は自分ができることを精一杯やろう。

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Comments

pongchangさん
コメント、ありがとうございます。

エコ燃料ロケットの発想、おもしろいですね。
いろいろ難しいこともあるようですが、成功ロケットを見ると、そのあとしばらく、幸せな気持ちでいられるようです。なぜなんでしょうね。不思議ですね。

Posted by: Rei | 2006.09.30 at 12:46 AM

http://tail-tale.blogspot.com/2006/09/gx-needs-25-bil-jpy.html
500キロのペイロードとすれば、M-IIIで構いません。
次期固体ロケットとGXの追加出費をあわせて300億円?

次期ロケットに開発という工学的動機だけで挑むとしたら、環境です。AP系の燃料は塩素ガスをだすが、地球には優しくないであろう。硝安の方がいいのか?とか。
エーテルをバイオマスで作る。とか。
そういう、規格を国際的に纏めて、危険な物質を使うロケットを安いからといって、手を出させなくする。
搦め手、そういえばそれまでですが、カムイやーい。
http://tail-tale.blogspot.com/2006/07/blog-post_05.html

Posted by: pongchang | 2006.09.29 at 08:57 PM

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