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湖のほとり

スペインの後に、ドイツへ。
フリードリヒスハーフェンへ向かう。ここに来た目的は、ある会社を訪れるため。大企業からスピンアウトしてエンジニアたちが作ったベンチャー会社だ。

二回乗り換えで、ほぼ一日がかりの移動。バレンシアを出たのはお昼くらいの飛行機で、着いたのは夜9時半くらい。バルセロナでちょっとドジをふみ、簡単な乗り換えをたいそう面倒なものにしてしまったが、ちゃんと次の飛行機に乗れたので問題なし。

翌日、その会社でミーティング。
10時から食事をはさんで6時まで。早く終わったら観光しようなどという甘い考えはふっとび、ドイツ流のやり方を学びつつ、意見交換をする。といっても、とても意見交換をするレベルではないので、一方的に吸収させていただく。もちろん、宿題のリサーチにもご協力いただく。

ここのオフィスは、普通の一軒家。二階建てのその家は、言われてみなければ会社だとは気づかない。広々としたガラスのテーブルがおかれたところが会議室。

窓の外はりんご畑。なんとものどかなここが、最先端の宇宙技術ベンチャーだというのが、なんともいい。この雰囲気といい、環境といい、とっても気に入った。手狭になってきたのと、やっぱりクリーンルームがほしいとのことで、近々、新社屋を作る予定だそうだ。

ランチは、湖のほとりのかわいらしいホテルで。
このあたりは、この季節、霧が出ることが多いらしい。午前中は霧だったのが、だんだん晴れてきて、ランチどきには快晴。戸外で太陽の光を浴びながら食事。

食後、湖のほとりを散歩しながら、スピンアウトしたエンジニアに聞いてみる。大企業に勤めていて、名もないベンチャー企業で仕事をするのはどんな気分なんだろう。本当にやりたいことはできているんだろうか。

「後悔したことはないですか?」

「一度もない。今のほうがずっといい」

「何がいいんですか?」

「責任の重さ。たとえば、契約がとれなかったとしたら、大企業だったら、上司のところへいって、次の仕事をくださいというだけだけれど、ここでは、そんなわけにいかない。それから、技術だけでなく、いろいろなことを自分でできることも気に入っている」

技術者として20年以上のキャリアを持つ方だからこそ言えるセリフかもしれない。また、いろいろなことをこなせる優秀な方だからこそ、それを楽しいと思えるのかもしれない。

企業統合の嵐が吹き荒れて、ドイツの会社でなくなってしまった元の会社は、エンジニアにとってあまり快適ではない環境になってしまったらしい。いろいろな国の損得勘定と駆け引きの中で、エンジニアの良心を殺して生きるよりは、新しい環境を自らつくることを選んだ人たちは、まったくの少数派。

3年前に設立したころ、ドイツ国内の仕事が多いと見込んでいたのが、ふたをあけたら、海外受注が8割。特にアジアのマーケットがよい感触なのだそうだ。確かな技術力を持っていればこそ、であろう。

6時になって、ビールを頂く。冷蔵庫にはちゃんとビールが冷えている。夕陽を見ながら、外で頂くビールの味は格別。

その帰りみちに、今回のミーティングをセットしてくださった方のご自宅にうかがう。この方の奥様が日本人で、3人のお子さんもみんな日本語が上手。かわいい犬がいる。

「何ヶ国語できるの?」と聞くと

「ドイツ語、日本語、英語、フランス語。このあたりでは普通です」との答え。日本語はちょっと特殊だが、スイス国境がすぐそこにあるこの地域では、バイリンガル・トリリンガルは普通なのだろう。ああ、なんといううらやましい環境。

日本で買ってきたという梅酒をいただき、おいしいドイツパンのオープンサンドイッチを頂く。

日本語、英語、ドイツ語が飛び交うなかで、ちゃんとおしゃべりは成立していて、楽しい時間を過ごした後、ホテルまで送っていただく。ありがたいことだ。

この方は、実は空港まで私を迎えにきてくださっていたのだという。私は知らずにタクシーでホテルへ向かってしまって、入れ違いだった。そういうときに限って飛行機は定刻より早く着き、そういうときに限って荷物はさっさと出てきて、そういうときに限ってタクシーにはすぐに乗れるものらしい。本当に申し訳なかった。

その翌朝、飛行機の時間までぶらぶらする。
湖のほとりのその町は、おとぎの国のような美しさ。対岸はスイス。
朝焼けを見ながら、湖に突き出た展望台を登る。上までいくと、急に見晴らしが開ける。

ここまでこなければ見えないものがある。
登らなければ見えないものがやっぱりあるのだなあと思いながら、360度に広がる景色を、ただ眺める。目が喜ぶものを見せてあげられてよかった。

ツェッペリン博物館のすぐ近くのホテルにいながら、行く時間がなかった。指をくわえながら、窓の外からちらりと見る。説明はすべてドイツ語だそうだが、やっぱり行ってみたかった。しかし、これは、また行くチャンスがあるのだと前向きに考えよう。

そう、すべては、次のもっとよきことのために。

湖のほとり・・・いつか住んでみたいところの一つだ。


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