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生かされて。

あまりに衝撃が大きいと、反応が出るのが少し遅れるらしい。
それくらいのインパクトを与える本である。

100日間で100万人。

ルワンダで起こった大量虐殺で犠牲になった人たちの数。
百万都市まるまる一つ分の人たちが3ヶ月でいなくなった。

1994年の春から初夏にかけてのことだ。

ちょっと重い話なので、続きは読みたい方のみどうぞ。

犠牲になったのはツチ族。加害者に見えるのはフツ族。ある日突然、仲良くくらしていた民族が反目しあい、殺戮が始まる。「ある日突然」に見えるこの構図は、実はずっと前からその素地は作られていたらしい。

著者は、その凄惨な100日間を、フツ族の牧師のトイレで奇跡的に生き延びた女性である。その小さな空間で、彼女はほかの7人の女性たちと息を殺して100日を過ごしたのだという。信じられるだろうか。

神に祈っている間だけ、彼女は救われた気持ちになる。すぐに「悪魔の声」がささやきかける。「助かるはずがない」というネガティブな、そして現実的に理性的に考えればうなずかざるをえない声が、どんどん大きくなる。

彼女は父から最後にもらったロザリオを握り締め、祈り続ける。フツ族を憎まずに許せるようにと祈る。そして、「神に出会う」。ピュアな信仰の力というのは、なんと大きな力を人に与えるのだろうと思わざるをえない。

何度もフツ族が牧師の寝室に押しかけ、彼女たちを探す。彼女は、神がドアに十字架をかけてくださったのを見る。

神に出会ったという人に、私は何度かあったことがある。ベトナム戦争のときに、あるいは貧乏と病気でどん底のときに、神に出会ったという。

そんなものは幻想だという人がいるかもしれない。私はなぜか素直に信じられた。彼らの生き方を見れば、信じられたのである。

兄のダマシーンは、こうなることを察知していた。そのとき、逃げていればあるいは逃げられたのかもしれない。けれど、父は政府を信じるといって、とどまる道を選んだ。そして、政府にいる友人を信じて、掛け合いに行って、殺されてしまう。母も兄弟も外国にいた長兄を除いて全員が殺されてしまう。

1994年。
この年は、私が宇宙の世界に足を踏み入れた年だ。
宇宙開発は、世界平和につながるという高邁な理想を抱いて。

そうして、とても恥ずかしいことに、ルワンダでそんな悲しいことがあったなど、そのときまったく知らなかった。地球の家族が大変なときに、のんきに理想を語っていた。そんな理想は、いかに現実からかけ離れた幼稚なものだったかに思い至る。

宇宙開発は、軍事と密接に関わっている。ここを忘れてはいけない。

フォン・ブラウンがその昔、「悪魔に魂を売っても作りたかった」ロケットは、軍事技術だったから予算がもらえて開発ができた。

世界中のどこの国でも、宇宙に軍事予算が使われている。日本は少し違っていたけれど、情報収集衛星は軍事衛星だ。それが現実だ。テポドン一発で世論も政治も簡単に変わる。

狭苦しいトイレの中で追い詰められていた彼女が精神的には救われたように、この理想とはほど遠い世界でも救いはあるだろうか。あると信じよう。なければ創りだそう。

ルワンダで大量虐殺が起こりそうだという情報はもちろん、起こってからの情報も、国連には届いていた。けれど、国連は動かなかったのだという。いろいろな思惑の中、「政治的に」判断されたことなのだろうか。

著書の中で、フランス軍が助けにきてくれて助かったのはいいけれど、車で移動中、フツ族がたくさんいて危険なところに置き去りにされたというくだりがある。何があったのか本当のところはフランス軍に聞かないとわからないけれど、突然命令が来て、「降りてくれ」といわれたのだという。もともと、フツ族に武器を供給していたのはフランスだった。

「生かされた」著者は、トイレの中で勉強した英語を生かして、神に導かれるように国連に就職し、今、こうして私たちに「何が起こったのか」を伝えてくれる。

悲惨な本のはずだけれど、読後感は暖かい。著者が「許して」、「今は幸せに」生きているからだろうか。

傷跡は消えないだろうけれど、痛みとともに幸せに生きられるということを、この本は教えてくれる。

Forgive, but not forget.

許すことで、救われる。
けれど、忘れてはいけない。
私たちの誰もが、フツ族にもツチ族にもフランス軍にも国連にもなりえるのだということを。


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