宇宙活動法
宇宙基本法ができたのを受けて、今度は「宇宙活動法」というのが制定される。
私は、UNISECの事務局長という立場で、その内容を話し合うワーキンググループに入れていただいており、関係者以外をシャットアウトした会合に参加させていただいている。ここには、ワーキンググループのメンバー(どうやって決まったのかはよく知らない)のほか、各省庁関係者がオブザーバーとして参加しておられる。
21世紀の初めに立ち上げたころには胡散臭い目で見られていた「学生の宇宙活動を支援・促進するNPO」も、いまや、霞が関で意見を聞いていただけるようになったのは、やはり喜ばしいことといってよいだろう。学生さんや先生たちの継続的な努力が、結果としてUNISECの相対的な立場を高めてきたのだと思う。
このWGで話された内容は口外しないということになっているので、何も言えないのだが、自分の意見を言うのは問題ないと思うので、少しずつまとめておきたい。
今日は「国際競争力」の話を少し。
宇宙基本法では、「民間事業者による宇宙開発を促進する」ことが重要視されており、それを受けた活動法でも、もちろん、それをふまえた議論がなされている。
民間事業者による宇宙開発を促進するには、やはり国際競争力が必要である。
国際競争力は、製品の使い勝手や性能がもちろん重要なのだが、それだけではない。
たとえば、人工衛星に不可欠な周波数の国際調整という仕事があり、これは総務省さんでやって頂いている。熱心にやってくださるので、いつも感謝しているのだけれど、たいへん残念ながら、日本政府による宇宙開発のバックアップは極めて脆弱にならざるをえない仕組みがある。役所では、「人材育成」はもっぱらジェネラリストを作ることに焦点があてられているようで、スペシャリストは育ちにくいようなのである。
「周波数の国際調整」担当者は、日本以外の国ではこの道10年、20年というプロであることが多いのに比べ、日本では、優秀で意欲のある人材がいたとしても、2、3年で異動になってしまう。人に仕事がついているのでなく、「ポジション」に仕事がついているからである。
むろん、優秀な日本の官僚の方々(これは皮肉などではなくて、本当に彼らは優秀で、しかも恐ろしくよく働く)は、そんな中でもちゃんとポジションをこなして、それなりの成果をあげられるのだが、国際会議の場、国際調整の場では、「カオ」がきくということが重要なのであり、「カオ」はポジションでも国でもなく、やはり「個人」のものなのである。
そういった国際調整の場で押したり引いたりしながら、国益を守っていけるプロの人材を、日本という国の仕組みではなかなか育てられない。そこが問題なのだと思うのだが、それは「宇宙活動法」の範疇ではおさまりきれない問題らしくて、いかんともしがたい。
人材育成は、別に教育機関だけがやればよいのでなく、役所でも企業でも、また個人としても大変重要なことである。必要な人材がわかっているのに、育てて確保する仕組みがないというのは大変残念なことである。
性悪説に基づく日本の役所の仕組みは、「癒着して悪事をはたらく」ことはできないようになっており、引継ぎもちゃんとなされるので、アベレージの仕事はちゃんとこなせるようにはなっているのだけれど、国際調整のような熟練のプロを育てるにはあまり向かないようである。
そのことが、日本の「国力」にとって、どういう意味を持っているのか。「国際競争力」にどんな影響を与えているのか。たぶん、これは氷山の一角で、さまざまな分野でそういうことは起こっているのだろうと思う。
霞ヶ関には優秀な人材が多いだけに、残念なことである。
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