税理士法人の方から聞いた話。
外国人に給料や報酬などの支払をすると、支払った側が20%の源泉徴収をしなければならない。日本に居住して1年以上たっていれば、普通の税率になるが、1年未満だと、金額にかかわらず、20%の税金を納めないといけない。そういうふうに決まっているそうだ。
その「決まりごと」が現実世界でどんなことを引き起こしているのかを聞いて、驚愕した。
新聞配達をしながら日本語学校に通っている留学生の月給が8万円だったとする。
日本に来て1年未満だったら、おさめる税金は月額1万6千円。
20%の決まりごとを守るとこうなる。
新聞配達店の店主が、留学生をかわいそうだと思って源泉徴収をしないとどうなるか。結局店主が税金を払わねばならない。
慣れない外国で、雨でも雪でも朝早く起きて、新聞配達をして、それから日本語学校へ行って日本語を学ぶ。帰ってきてから、今度は夕刊を配る。そうして稼いだ生活費の2割が税金としてとられる。通常であれば、ほとんど税金はかからない収入額だ。確定申告すれば戻ってくるといっても、お金が必要なのは1年先でなくて、今だろうし、確定申告をすることも留学生にとっては相当にハードルが高いだろう。
なぜ、こういうことが起こってしまうのだろうか。
「決まりごと」がそういうケースを想定して作っていないところに問題があるのかもしれないし、決まりごとに例外を認めないしゃくし定規のところがよくないのかもしれない。一つの決まりごとを、すべての人に一律に適用しようとする発想がそもそも現実にはあわないのかもしれない。
ということを考えてきて、今作られようとしている宇宙活動法も、同じようなことになるかもしれないと心配になってきたので、ここで書いておきたい。
宇宙活動法の中で、私が一番心配しているのは、既存の大企業や国による宇宙開発活動と、新規参入するベンチャー企業や大学などの宇宙開発活動を、「打ち上げ事業者」という一言でくくって、同じように規制しようとしているところである。
宇宙活動法中間報告とりまとめに対して募集したパブリックコメントへの回答が公表されているので、紹介しておく。以下からダウンロードできる。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utyuu/index.html
昨年11月に最初の回答案が宇宙活動法ワーキンググループののメンバーに回ってきたとき、たぶんほとんど全員がそうしたと思うが、私もコメントを送った。いくつかは反映していただけたようだが、まったく反映されていないものもある。もっとも反映してほしかった部分は反映されていない。特に以下の部分である。
コメントの多くは、この宇宙活動法のもとでは中小企業や大学、異業種などが宇宙開発に参加するのは、ますます難しくなるだろうという懸念を表明しています。これほどたくさんの方が同じような意見を出されるということは、大企業も中小企業も大学もすべて一律に取り扱うことが是であると方針に反対である人が多いということを示していると思います。法律を決めてしまってから、運用上でいろいろやっていきましょうといっても、今いらっしゃる理解のある方々は異動でいなくなってしまうわけですから、法律の条文だけが残ります。大企業であれば、「霞が関要員」を作って、日参することも可能でしょうが、中小企業や大学ではそのようなことは無理です。ですので、もっとわかりやすく、もっと透明性を高くして、「大企業はもちろん、中小企業や大学も宇宙開発をしている元気な日本」を法律が守っている、というくらいの法律を作っていただきたいと思います。
私はこのワーキンググループがはじまるときに、「世界中の国がこの法律を翻訳して自国の法律の参考にしたくなるような、すばらしい法律を作ってほしい」と思って参加したのであり、その気持ちは変わっていない。法律を読んだら、みんながやる気になるような法律がもしもできたら、嬉しいではないか。
国というのは、そこに住んでいる人とほぼ同義であると私は思っている。よく、「国が悪い」というような言い方をすることがある。私自身もそんなふうに言ってしまうこともあるけれど、自分はその国の一部であるという認識を忘れてはいけないと思う。何もしないでいて、政府が悪い、国が悪いといっても、何の解決にもならない。誰が悪いかを決めるのでなく、どうやればよくなるかを考えるほうが、私の好みには合う。
国の法律は、住んでいる人のルールになる。いったんルールができると、その思考方法から離れるのは難しい。すべての仕組みがその型にはめられて決められてしまうからである。だからこそ、最初のルール作りをしっかりやることが大切だと思う。
「決まりごとだから」といってすませるのでなく、その決まりごとを作るのは何のためなのかを一人ひとりがよく考えて、どうしたらよくなるのか、智恵を絞っていければ、と思う。
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