ナノ・ジャスミンのPDR

ナノ・ジャスミンのPDR(基本設計審査)。
午後2時から6時過ぎまでびっちり。審査する側と審査される側の机は分けられ、別々にすわっている。その他大勢は、まわりにすわって見学。私もその他大勢に入れていただいて、見学。

関係者の皆さんは、ここ数日というもの、目の下に隈を作って、資料の作成に追われていた。卒論の締め切りを1週間後に控えた4年生の稲守さんは、卒論そっちのけで準備にあたっていた。今日から泊り込みで卒論にとりかかるらしい。

審査のために呼ばれた方々は、この世界ではよく知られた方ばかり。ついこのあいだまで学生だった方もまじっていて、懐かしい雰囲気。筑波JAXAからはN田さんとT木さん、NICTからはK村さんとM下さん、ISAS・JAXAからはM原さんとT田さん。

審査される側は、天文台の郷田先生をはじめとするジャスミンチームの皆さんと、中須賀研究室のナノジャスミンプロジェクトチームの皆さん。D2の初鳥さん、M1の田中さん、4年生の稲守さん。ミッションや設計について、次々と発表していく。

酒匂プロマネが仕切っているので、進行はきわめてスムーズ。本日は紺のスーツにネクタイでびしっと決めている。ヒゲはいつもどおり。進行を仕切りながら、お茶やコーヒーの気配りも忘れないのが酒匂流。スターバックスのコーヒーまでちゃんと用意されているあたりがすごい。

どんな厳しいことを言われるかと思っていたが、PDRは、Positive Design Review の略だったのかな、というくらいに前向きなコメントが多く、ちょっと拍子抜け。

2008年に打ち上げの希望。H2A打ち上げ公募でも、Aランクの評価をいただいているそうだ。

PDRの後に、ピザとビールで簡単な懇親会。

素人の私がコメントすることはないので、懇親会でうかがったコメントをいくつか載せておこう。

「ついに、ここまできたかという感じです。今まで、(大学衛星は)動けばいいというレベルだったのが、これは完全にオトナになって、このままではうかうかできないな、と思いました」(審査員)

「はしにも棒にもひっかからなかったら、誰も何も言わない。できそうだから、みんな言うんです」(審査員)

「難しいけれど、物理的に不可能とは思わない。2008年?うーん」(審査員)

「2個作るというのがいい。1個あげて、不具合を直してまたあげればいいからね」(審査員)

「大成功まちがいなしです」(天文台)

「Yくんがなんと言おうと、精度を下げてでもやる。やってみるということが大事」(天文台)
(注:Yさんは、この精度が出なければやる意味がないとずっと主張しておられる)

「PDRまで到達したのがすごい」(どなただったか記憶が不明)

懇親会のあと、ナノジャスミンの検討会が引き続き行われ、審査で指摘されたことについて、議論されたらしい。

PDRが終わって、これからがプロジェクトの本番。実際に衛星を作っていくフェイズに入る。

もし、これが成功したら、実はすごいことなのだそうだ。
天文台ミッションとしては、もちろん世界初の成果となるが、工学的技術的な成果としても大きいものになる。

なぜなら、このミッション要求にこたえるためには、超小型衛星での3軸姿勢決定・制御、温度制御が必要で、それを2年で実用化しなければならない。これは、普通なら、チャレンジすることも思いつかないような高い壁である。

「工」という字は、「天と地を結びつける人の営み」を意味するそうだ。天と地を結びつけるのは「人」。
(引用:「宇宙樹」p63、竹村真一著)

天と地を結びつけるには、そびえたつ高い壁があったほうが結びつけやすいのかもしれない。高い壁は、きっとそのために与えられるのだろう。

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引力と斥力

2

ナノジャスミンの反省会。今日はもんじゃ焼きのお店へ。
今日も今日とて、途中から熟睡モードに入る方やら、静かに飲み続ける人やら、熱く語る人やら、まめまめしく世話を焼く人やら、いろいろであるけれど、とにかくみなさんよく召し上がる。

またたくまにお好み焼きをたいらげ、もんじゃ焼きに突入。そして、焼きそばに焼きうどんに焼き飯。あいまにししゃもを鉄板のすみで焼いていたりもする。明太子チーズのもんじゃ焼きが不思議なおいしさ。

1
Sさんには、毎回驚かされる。お酒が入ると正直モード全開になる楽しい性格の彼は、今回も、衝撃的な話をしてくださった。全員がちょっと後ずさり。ここではとても書くことはできないが、要するに、湯川秀樹博士の中間子の理論を人間関係で説明するとこうなる、という話。

ある距離を越えると、斥力は引力に変わる。陽子や中性子が中間子をやりとりするようになるからである。人間関係においては、その距離は50センチーメートルだというS氏。二体は危ない。三体であれば、一人が中間子になる。わかる人にはわかり、わからない人にはわからない、難しい物理のお話なので、このあたりでとめておこう。

ナノジャスミンの概念設計では、フレッシュな新人が健闘している。田中崇資さんと片岸秀明さん。まだ4年生だが、本日は姿勢制御と熱制御について検討会で発表。

姿勢制御の発表をしたのは片岸さん。ナノジャスミンプロジェクトで、星の位置を測定するためには、「年周視差」というものを計る必要があり、それには1ミリアークセックの精度が必要なのだそうだ。1ミリアークセックというのは、1度の3600分の1のそのまた1000分の1ということなのだが、それはいったいどのくらい小さい角度なのだろう。目にも見えないような精度を出せるものなのか。しかも、10秒のあいだに700ミリアークセックずれてもいけないらしい。そんなことが可能なのか。

空気抵抗、太陽輻射熱に加えて残留磁気など、姿勢を不安定にする要素はたくさんあり、どうやって解決したらいいのか、頭を抱える二人。

姿勢制御といえば、まず思いつくのがホイール。道工大の佐鳥研究室で開発していた小型のホイールに望みをかけて電話。佐鳥先生は、深夜の電話にも関わらず、快く対応してくださった。まだ精度の測定をしていないので擾乱量がどれくらいなのかわからない。ということは、望みの綱はまだ切れていない。

しかし、そもそも、そんな精密な角度をはかれるセンサーがあるのか。今、3つの案があって、検討中。CCDカメラで撮影した星のぼやけ具合によって測るというのが有力だそうだが、可能かどうかはまだわからない。

田中さんは、熱制御の担当。99.5度の角度をなす二つの方向を同時に観測すると、正しい方向を測定できているかどうかがわかるのだそうだ。カメラは一つで、鏡を向けて両方とれるそうだが、温度がかわると金属が微妙に伸び縮みする。そうすると、本当に99.5度の角度をなしているのかどうかも不確かになってしまう。それを解決するためにどうすればよいのか。シミュレーションではうまくいったけれど、現実の世界ではもっと別の要素が入り込むのは間違いない。

二人は、「こんなすごいプロジェクトの検討をさせてもらえるなんて、うれしい」といいながらも、
「ARLISS(で作ったカンサット)でさえ、思うとおりに動かなかった。頭の中でわかっていることだってできないのに、どうやればいいのかもわからないことが本当にできるんだろうか」と不安そう。

技術的なハードルを一つずつ検討していくと、いまのところ、すべてアウトなのだという。けれど、決して後ろ向きにならないところが素晴らしい。

「でも、まだ検討する余地はたくさんあります」という片岸さん。
「宇宙論に関わる大事なミッションだから、絶対に成功させたい」という田中さん。

田中さんは、もともと、物理系にいきたかったというくらい、天文には熱い想いをもっている。このプロジェクトがうまくいけば、宇宙で距離をはかるモノサシがより正確なものになり、遠くの銀河の距離がわかるようになるそうだ。そうしたら、これまでの宇宙論を覆すことになるかもしれないし、新たな発見があるかもしれない。

ミッションの核心に近づいていけば、「斥力が引力」になって、普通では起こりえない相互作用が起こって、技術的なハードルをクリアできる日もくるかもしれない。

(これらの芸術的写真は、ジャスミンプロジェクト専属(?)のカメラマン、小林氏撮影のもの。手とお好み焼きの躍動感がすばらしいですね。ちなみに、この手は私の手です)

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ジャスミン忘年会

ナノジャスミンプロジェクトの、少しはやめの忘年会。(ここでは「反省会」という名前を使う)
某研究室御用達の「ピグ」にて盛大に行われた。お刺身が出て、お鍋が出る。けっこうおなかがふくれてくるのだが、
「これは前菜です」という声。
そして、その後、ステーキにエビフライにおそばが出る。さらに、巨大なイチゴとメロンが。これで最後かと思うと、コーヒーゼリーが。某研究室の胃袋をも満足させるピグの底力はさすがである。

忘れたころにやってくる、天文台ジャスミンチームの皆さん。2003年4月から検討を始めたプロジェクトは、まだ衛星の形にはなっていない。望遠鏡は何度も試作し、今度「振動試験」をするそうだ。「ハンマーでたたいても壊れないように」は作られてはいないようなので、どうなることだろう。気の毒な望遠鏡さん。

個性豊かなジャスミンチームには、やはり個性豊かな人々が集まるらしい。

学生のNさんと郷田さんの出会いが愉快。
出身は阪大だというNさんは、大学院入試で阪大に落ちて、京大に「拾って」もらったのだという。その京大の指導教官が、天文台の郷田さんの隣の部屋の先生のところに学生を送りこもうとしたところ、たまたま海外出張で不在だったために、郷田さんのところに行くことになったらしい。

しかし、その「隣の部屋の先生」も、実は重力波観測ですごいことを考えていて、宇宙で実験しようと計画中。いずれにしても、Nさんはそういうことに関わるようになっていたのかもしれない。運命の赤い糸は幾重にも用意されているらしい。

ジャスミンチームは、お酒がからきしダメな矢野さんと、いくらでも飲める郷田さんが平和共存できる自由な雰囲気。矢野さんは水分をとらなくても生きていけるという不思議な方。山田さんは、あわてず騒がず、静かにたくさん飲んでおられる。札幌出身の山田さんの写真には、ちょっと古いけれど、「男は黙って、サッポロビール」のキャプションをいれたい。

宴の半ばくらいから意識を失い始めた小林さんは、最初は何度か体制を立て直そうと試みていたが、最終着地体制に入ったあとは、宴とは無関係の横たわる存在になった。なぜかポケットに手を入れて壁のほうを向いて熟睡。
「寝てないよ」
どこででも寝られる特技を持つ小林さんは、いつも決まってそうおっしゃるのだそうだが、今回も例外ではなかった。

今回は、たいそうまともな好青年の印象を与える若手スタッフの菅沼さんが、ブレイク近しという兆候を見せた。個性豊かなジャスミンメンバーの面目躍如。これでプロジェクトもぐんと進むに違いない。この方の奥様にぜひお会いしたいと思った。ガンダムを全巻そろえているとはただものではない。

「ガンダムは、ロシア宇宙主義にのっとっている」とは、某研究室の先生のお言葉。
かのツォルフコフスキー氏の「人間は宇宙に出たら、宇宙用に進化していく」という考え方を下敷きにしているというのであるが、真偽のほどは不明。

天文台特製のカレンダーをいただいた。すばるのカレンダーというので、星の写真満載かと思いきや、めくってもめくっても、星の写真は出てこない。四季折々のすばる望遠鏡の建物の外形を写した写真だけで構成された、ややマニアックなカレンダー。このこだわりは悪くない。ハワイのマウナケア。一度、行ってみたいところの一つだ。

来年がジャスミンチームの皆さんにとっても、素敵な年になりますように。
飛躍的にプロジェクトが進みますように。
皆さんの個性がますます美しく花開きますように。

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ビール日和

本日、ビール日和。
夏は、ほぼ毎日がビール日和。

東大赤門のすぐそばに、ビール園がある。大きな通りに面しているので、やや車の往来が気になるが、ビールを飲んでおしゃべりに興じれば、まったく気にならなくなるのが不思議。

天文台の皆さんがいらっしゃって、ナノジャスミンの検討会。その後、恒例の反省会は、このビール園が会場に選ばれた。提灯がぶらさがり、夜空の下で、なかなかの雰囲気。

本日の検討会では、打ち上げに向けての予算獲得と支払い方法が議論にあがった。衛星を作っただけではだめで、ロケットで宇宙まで打ち上げてもらわないといけない。打ち上げロケットの契約金は、前払いで、しかも契約金の半分くらいは、かなり前に払い込む必要がある。相手は民間企業なのだから、当然である。

しかし、国立の大学・研究機関では、こういった支払いの例は今まであまりない。うまくいくように今後の努力が必要である。さらに、冗談半分で、自分たちで資金が調達できれば、支払い方法で困る事はない、との話まで飛び出してきた。

「矢野くん、はやく、エビ識別ソフトを作ってよ」
エビ識別ソフトとは、写真を何万枚と整理しないままに溜め込んでいるという噂の小林氏が、自動的に写真を整理するソフトがあれば便利だという発想で考え出したもの。

「エビと入力すれば、エビの写ってる写真を自動的に選んでくれるソフトがあれば便利でしょ?」
練習用にと、カニの写真とエビの写真はたくさん撮ってあるらしいが、当の矢野さんはあまり興味がわかない様子。

「そのソフトで儲けて、打ち上げ費にしようか」
京都から来ている山田さんが冗談のように口にする。資金面の問題は、プロジェクトの成功に直接的にかかわる。お金がないわけではないのだが、契約金の前払いという「前例」がないのである。

技術的な問題も山積している。ナノジャスミンというプロジェクトで、何をどこまで実現するのか、という線引きをしないと、衛星の設計もできない。このあたりは、「決める」以外に方法はない。選択肢がどれほどあったとしても、結局はひとつしか選べないのだ。

ジャスミン物語は、ビールの泡のように消えていくのであろうか。あるいは、ここで誰かがねばりを見せて、解決策を見つけるのだろうか。

小林氏による恒例の記念撮影は、「サッポロビール」ののぼりとともに。

「この写真もっていって、サッポロビールにスポンサーになってもらおう」
という冗談が出てきてしまうのが、ほろ苦くも笑える。

貧すれば鈍すか、窮すれば通ずか、いずれの道をジャスミンチームは歩むのか。同じように苦しい状況におかれても、進む道は微妙に違う。その違いは、誰が何を未来にインプットするかによる。

いつものように矢野さんの運転する軽自動車に乗り込んだジャスミンチームのリーダーである郷田さんに、別れ際に聞いてみた。

「2年後に打ち上げる自信はありますか?」
郷田さんは、にっこり笑って答えた。

「もちろん、大丈夫です」

郷田リーダーの力強いインプットによって、ナノジャスミンは2007年に無事に打ち上げられることになった。
・・・将来、そんなふうに書けるようになることを祈ろう。

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末広がりの日

8月8日は、末広がりの日。8は縁起のいい数で、それが二つもあるのだから、めでたいことこの上ない。・・・と勝手に考えている。

2年前のこの日、三鷹にある天文台にうかがった。
すっかり忘れていたのだが、写真を整理していたら、撮影日が2003年8月8日の写真があった。

ジャスミンチームの皆さんのほかに、台長さんにもお目にかかったような記憶がうっすらとあり、写真にはくっきりと写っている。この当時は夢のような話だと思ったが、今は、夢から現実に少し歩みはじめている。

2年しかたっていないようにも思うが、2年もたったようにも思う。
この2年の間の変化は大きかったが、これからの2年はもっと大きな変化があるような予感がする。よき方向に向かっていくことを祈りたい。

明日から、能代へ行く。
「能代宇宙イベント」なるものが、行われる予定で、UNISEC加盟団体もたくさん参加する。カムバックコンペはもちろんのこと、本邦初のローバーコンペも行われる。大学生のハイブリッドロケット打ち上げもあれば、子供たちのモデルロケット打ち上げもあるらしい。

「キューブサットカムバックコンペ」というのは、いままでやったことはなく、どうやって宇宙からカムバックさせるのかよくわからないが、最近出た小説「2005年のロケットボーイズ」では、工業高校の落ちこぼれが作ったキューブサットが、「キューブサットカムバックコンペ」で優勝するらしい。(読んでいないのであやふやです)

日本の学生たちが初めて挑戦し、ネバダの砂漠でカンサットが空を舞ってから、ほんの6年。小説のネタにまで使われるほどに知名度があがってきたのは喜ばしい。裾野を広げるとともに、頂点を高める努力を惜しんではなるまい。

8月8日は末広がりの日。
よきことが、どんどん自然に広がっていくといい。打算や欲得と無関係なところで、無理のないスピードで広がった先にあるすばらしい世界を想像するのは、たまらなく楽しい。

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インド料理で反省会

本日、ナノジャスミンの検討会。5時間にわたって、熱い検討と議論が繰り広げられ、おおいに得るところがあり、華々しく進展した、らしい。私はその場にはいないので、反省会でのコメントを鵜呑みにする。

恒例の反省会はインド料理。
根津駅そばのサルタンというお店。
ここはウェイターもコックさんもみんなインドの方らしい。インドの音楽番組のようなものが大画面でずっとかかっている。味はそれほど辛くなく、おいしい。ジャスミンチームの皆さんはどこへいってもそれなりにその場にはまるから不思議。

小林行泰氏が例によって、デジカメで写真を撮影しまくる。彼が写真をとるまで、料理には手をつけてはいけないという不文律があるらしい。しかし、このおびただしい量の写真が、将来、日の目をみることがあるのか否かは不明。整理されずにひたすらたまっていっている様子もあるが、日本版「刑事コロンボ」のようなこの方のことだから、きっと何か妙案をお持ちなのだろう。

このジャスミンチームの皆さんは、物理学者といってもいい方たちなのだが、お話をうかがうに、物理学を理解するアタマには二通りあるらしい。つまり、式で考える人と、イメージで考える人と。そして、前者が圧倒的にメジャーで、後者はマイノリティなのだそうだ。

ジャスミンチームの中では、矢野太平氏と小林氏がイメージ派。郷田直輝氏と山田良透氏は式派。イメージ派は、アタマの中に三次元構造があって、そこでいろいろ考え、それを式に変換する。式派は、あの難解な物理の式を、あいうえおのようにやすやすと操り、そこで思考をめぐらし、その結果をイメージ化する。そして、主流は式派。物理学は式で表せてナンボの世界らしい。

そんななかで、イメージ派の矢野氏がスクスクと育ってこられたのは、よき理解者である郷田氏に出会えたところが大きい。二人はかれこれ13年くらいのつきあい。京大で学部を終えた矢野氏が、勧められて阪大大学院に進み、そこで出あったのが郷田氏。5年後、二人はともに天文台に移ってきた。偶然のことで、当時は別の部署にいたそうだ。

「今は、あうんでわかりますけど、最初は何を言っているのかわかるまで一時間くらいはかかりましたね」と笑う郷田氏。

「信頼関係ですよ。矢野くんが言うことは聞く価値がある、ということを体験として持っているから、突拍子もないことを言っているように思えても、ちゃんと聞いてみようと思うわけです」と山田氏。

ナノジャスミンプロジェクトは、何をどうすればよいのか、というところから考えていく必要があるそうだ。矢野氏の「アタマの中の三次元イメージ」による発想力に期待しよう。

矢野さんは、マジメな人である。とにかくマジメである。どれくらいマジメかというと、高尾山ハイキングに行くとなったら、ハイキングの練習をしてしまうような人なのである。100メートル以上の移動には車を使うという噂の彼は、坂道にめっぽう弱いのだがなんとか山頂まで上ろうと練習に励んでいるらしい。ケーブルカーというオプションもあるので、きっと大丈夫だろう。

そんなマジメな彼のアイディアが閃く場所は、風呂でもなく車の中でもなく、やはり机の前だそうだ。この件についての彼の解釈はこうだ。

「式派の方々は机に向かうと式に縛られるので発想する暇がないのです。だから風呂などの時、式の呪縛から開放されて発想するのだと。。。」

矢野氏は机の前でもカリカリと式を使って研究はしていないそうで、丸の絵や線を引いてお風呂に入ってるかのごとくにボーっとしているらしい。

郷田氏と山田氏は、学生時代の先輩後輩。そして、彼等が院生時代に、大学院生が集う「天文・天体物理若手夏の学校」の校長先生と事務局長という間柄でもあった。知られざる話はたくさんあって、二人はなんと、あのGRAPEプロジェクトにもおおいに貢献したそうだ。その夏の学校にお呼びした講師のお一人が、若手へ講演をしたのが契機となって、後日、他の先生に話をもちかけたのが発端となったので、その場を創ったゴーダ・ヤマダコンビ(なんとなくインド風の響き)は実は陰の立役者(?)なのだそうだ。

何かを創める人は、人生で何度かそういう機会を得たり、立ち会ったりするものらしい。創めることがミッションになっている人の人生は楽しくもあり、険しくもある。でも、うまくしたもので、そのタイプの人たちには、険しい道のりを楽しく歩めるコツが自然に身についてくる。

中須賀研究室側は、辣腕のプロマネ酒匂氏が東大の助手として戻ってきて、このプロジェクトを担当することになった。ジャスミンチームに欠けているものを持っているように見える酒匂氏の活躍も楽しみである。一見普通の青年のように見える新人研究員の菅沼氏の特異な才能も、じきに顕在化してくるに違いない。

ビバ!ジャスミン!

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ナノ・ジャスミン

天文台のジャスミン検討室の「反省会」に顔を出す。確か前はちゃんこ料理だった。今回はもんじゃ焼き。食べたものがタグになって、ミーティングの内容が整理されるという、なんとも自然の摂理に従った仕掛け。

位置天文学というなにやら難しげな学問領域に取り組むこのチーム、全員が「理学博士」の肩書きなのに、とても気さくで楽しくて、アタマのよさをひけらかすようなそぶりを見せたことがない。知らない人が見たら、ただのヨッパライ集団にしか見えないかもしれないのは、やはり「能ある鷹は爪を隠す」ということわざのとおりか。

この陽気な鷹軍団がもくろんでいるのは、しかし、相当にアンビシャスでチャレンジング。衛星を使って、星の距離を測るということらしいのだが、相当に精度をあげなければならないから、姿勢制御もかなりきっちりとやらなければならない。大きな衛星でやる前に、小さな衛星で試してみたい、経験を積みたいということで、大学衛星との接点ができた。もとの計画は、英語の計画名の頭文字をとってジャスミンと呼ばれていたから、小さな衛星を使う計画のほうはナノ・ジャスミンと呼んでいる。あと3年ほどで打ち上げの予定。

この軍団を率いるのは、郷田直輝氏。ムーミン風の笑顔の裏にどのような特殊能力が隠されているのか、はかりしれない。その郷田氏を超小型衛星を製作している研究室に引き合わせた「目利き」が小林行泰氏。2003年3月に六本木で行ったキューブサットシンポジウムに参加したことがきっかけだったという。あのオーガナイズは大変だったが楽しかった。土曜ワイド劇場に出ても違和感がなさそうな雰囲気をお持ちのこの方は、ひねもすのたりのたりかなのごとくにビールを飲みながら、しかし鋭いのである。さらに、京都からやってくる山田良透氏がまたいい味をかもし出す。細い目は眼光鋭いが、笑うと「人のよいお公家さん風」になる。

そして、「愛される運転手」の矢野太平氏。この方のキャラは漫画にしたいくらいかわいい。ちょうど1年前のこの日(3月1日)に、助手になられたそうで、一周年記念。アルコールが飲めない体質なので、常に運転手待遇。学生のころからずっと運転手で、たぶんこれから十年たっても二十年たっても、やはり皆様のための運転手をお努めになるのだろうなあと、ほほえましい未来がちらりと見える。新人研究員も加わったが、この方のキャラはまだ不明。

卒業設計でナノジャスミンを設計した四年生の二人に聞いてみた。
「この設計のまま、作って打ちあげていいですか?」
二人は大きくかぶりをふった。相当に難易度の高い衛星らしい。

天文台のほうでは望遠鏡をちゃくちゃくと試作しているという。郷田家の庭ではジャスミンの花を植えているという。
なにやらわかるようなわからないような話であるが、優秀な日本の天文学者たちの夢が美しく花開く日が早く来ますように。


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ジャスミン

浅瀬川というちゃんこ料理屋。「ちゃんこ」は「おかず」という意味なのだそうだ。鳥のだしをしっかりとったスープは絶品。後でごはんをたっぷりといれて卵を割り、さっと作る雑炊も心にしみる味だ。

「浅瀬川」という父の名前を襲名した息子が、今は土俵にあがってがんばっている。襲名できるような職業がいったいいくつあるかを考えると、これはすごいことだ。

番付表をもらう。初めて見たけれど、日ごろ目にしない力士たちの名前は芸術的なほどに長細い文字で書かれている。「浅瀬川」もまだ細いが、ちゃんと見つけられた。モンゴルとかロシアとか、カタカナの出身地が多いことに驚く。

ちゃんこを食べながら、ジャスミンの話を聞く。今日は午後に天文台のチームがきて学生さんたちとミーティング。夜は「反省会」という名の懇親会。彼らがくるといつも「反省会」なるものがセットされる。私はその会にだけ参加し、皆さんの「反省」を楽しく拝聴する。

JASMINEは、Japanese Astrometry Satellite Mission for INfrared Explorationの略。赤外線探査による位置天文衛星計画。星の距離が何億光年といっているのは、かなりアバウトな数字らしい。それを赤外線でちゃんと測ろうということらしい。

星の距離を測る。浮世はなれしたそのお話を聞くだけで浮世の垢を落とせるような気がする。これは「ジャスミン物語」として書けそうだ。物語は現在の情況から見える過去を紡ぎ、未来の希望につなげるもの。今、カンサットの次の「キューブサット物語」に取り組んでいる。学生たちがホンモノの人工衛星を作って宇宙へ打ち上げる話だ。WEBに載せているが、それをまとめるというよりは、新たな視点で「物語」にしたいと思っている。

書いていて思うのは、「予兆」というのか「サイン」というのか、そのようなものがどうやらあちらこちらに落ちているということ。そのときには気づかない「サイン」。後になると、「あれがそうだったんだ」と思うこと。その逆もある。そのときには明らかなように見えていた「サインらしきもの」。後になると、「あれは違っていた」と思うこと。そういうことは、日常生活にもよくあるのだけれど、見過ごしてしまうことが多い。

未来は予測不可能だという。では、過去は解析可能なのだろうか。学生さんたちの不屈の挑戦を文章に紡ぎながら、過去もまた予測不可能なように思えてならない。

ジャスミンのプロジェクト自体は2014年の打ち上げを計画(希望?)しているそうだが、その前段階としてナノ・ジャスミンプロジェクトを計画している。そこに学生の衛星プロジェクトがからんでいる。卒論のテーマにもなっているので、参加している学生2人は真剣そのもの。天文台の皆さんは、こんな研究をすることが楽しくて嬉しくてたまらない様子。

いつか、この日のことを思い出すことがあるといい。
そのときは、ジャスミンプロジェクトが成功しているだろうか。「ジャスミン物語」も筆が進んでいるだろうか。どちらにしても、私はきっと、この初期の「反省会」に参加していたことを光栄に思っているだろう。

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